タール剤(グリパスC、モクタール、イクタモール)

グリパスCは正式には、脱脂大豆乾留タール・ジフェンヒドラミンといいます。

グリテールと亜鉛華軟膏、抗ヒスタミン剤のジフェンヒドラミンの混合剤です。

脱脂大豆乾留タールはグリテールのことであり、脱脂大豆を乾留精製して得た暗褐色、
粘稠のタール液で、特有な強烈な臭いがあります。

モクタールやイクタモールのように高濃度では使えないぐらいの独特な臭いがあります。
湿疹・皮膚炎群、掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、皮膚そう痒症に適応があります。

タール剤の中でも特にきついにおいがあるため軟膏基剤に0.2~5%の濃度に練合し、
1日1~2回塗擦又は貼付して使用します。

その一つが、グリパスCです。
1g中脱脂大豆乾留タール5 mg、ジフェンヒドラミン5 mg、酸化亜鉛50 mgが含まれます。
亜鉛華軟膏も入っているので、乾かす作用があります。
色がオレンジ色ですからモクタールのような汚れはありません。
抗炎症効果はモクタールの1/3ぐらいしかないといったイメージです。

古代エジプトにおいて死体保存の目的で使用されていたモクタールは、欧米では古くから、
盛んに医療用に利用されています。

アカマツおよびクロマツから得られる帯黒褐色の粘性の液で焦げたようなテレビン油臭があるモクタールは、Stockholm tarとも呼ばれ、北欧諸国でよく使われています。

コールタールは発癌性、光線過敏性が問題になりますが、
wood tarのモクタール(pine tar:赤松)はこれらの副作用がないと報告されています。

白癬、黄癬、疥癬、乾癬、湿疹・皮膚炎群が適応疾患です。
20~33%濃度のモクタール10%亜鉛華軟膏は抗炎症、抗そう痒効果の上で特に有用です。

どちらが効くかというと、ずばり、モクタールです。
グリパスCはグリテールが0.5%ですが、33%モクタール亜鉛華軟膏はモクタールが33%もあります。

グリテールは強烈なにおいがあり、モクタールのように高濃度では使えません。
で、0.5%となるのですが、これではやはり、効き目は弱くなるというわけです。

現在、わが国で応用できるタール剤は、モクタール、グリテールの他に、イクタモールがあります。

オーストリアのチロル地方の太古の魚類と海獣の残骸を含む石塊(瀝青質頁岩)を乾留精製して得られた
イヒチオールと称する独特のにおいがある油状のタールがイクタモールです。
イタリア、フランスでも産出されています。

亜鉛華軟膏と混じて
湿疹・皮膚炎群、ざ瘡、膿痂疹、毛瘡、凍傷、火傷、関節炎、痔疾などに 用いられています。
これは、モクタールほどは臭いがきつくなく、使用時の刺激も少なく、
疾患によっては、強い炎症抑制作用があり、
重宝して皮膚科医(入手が困難なため、ごく一部の皮膚科医)の間で使われています。

○適切な調合の比率がポイント

いずれにしても、これらはにおいがあるのでいやだと敬遠される患者さんが結構いらっしゃいます。
それが大きな欠点です。
しかし、これらの欠点を補って余りある抗炎症効果が得られます。
モクタールをしっかり使うことにより、
ステロイド外用剤の長期連用後の突然の中止で起こるリバウンドをしっかり抑制して、
一気に脱ステができるようになりました。

・モクタール

(1)モクタール:10%亜鉛華単軟膏=1:2

(2)モクタール:10%亜鉛華単軟膏:プラスチベース=1:1:1

(3)モクタール:10%亜鉛華単軟膏=1:9

(4) モクタール:10%亜鉛華単軟膏:プラスチベース=1:5:1

(5)モクタール:プラスチベース=1:5

(6)モクタール:オリーブ油(大豆油でも可)=1:3

(1)のモクタール:10%亜鉛華単軟膏=1:2 がもっとも効きますが、
症例により、(2)を選んだり、塗りやすく、刺激が少ない(3)や(4)を選んだりします。
亜鉛華単軟膏が刺激になり、使えないような場合は、(5)モクタール:プラスチベース=1:5 を使います。また、被髪頭部で、ローション的に使いたい場合、
(6)モクタール:オリーブ油(大豆油でも可)=1:3 を使います。

・イクタモール

(1)イクタモール:10%亜鉛華単軟膏:プラスチベース=1:9:1

(2)イクタモール:10%亜鉛華単軟膏:プラスチベース=1:2:2

のどちらかが、ちょうどよい混合比です。

・グリパスC

(1)グリパスC:スタデルム軟膏=2:1

(2)グリパスC:スタデルム軟膏=1:1

(3)グリパスC:スタデルム軟膏=1:2

(4)グリパスC:スタデルムクリーム=1:2

(2)のグリパスC:スタデルム軟膏=1:1が人気がありますが、より強い抗炎症効果をきたいするには、(1)、より軽いものは、(3)を選びます。

高齢者の脂漏性皮膚炎が混在しているような痒い皮膚に特に効果があるのは、
ニゾラールクリーム:グリパスC:スタデルムクリーム=2:1:1です。

高齢の方は、これらのタール剤、昔の皮膚科を思い出す懐かしい臭いだとおっしゃいます。

皮膚病診療 2002年、vol. 24, No.4, 440-442
藤澤重樹(医療法人社団 アップル会 藤澤皮膚科)

   ステロイドやタクロリムスの外用剤は、
湿疹・皮膚炎群たとえばアトピー性皮膚炎の治療において優れた消炎効果を示す薬剤である。

これらの薬剤の使用で病変が改善すると、ブフェキサマクやイブプロフェンピコノールなどの非ステロイド系抗炎症剤、エモリエント効果のワセリン、モイスチャライザー効果のある尿素、酸性ムコ多糖、セラミド製剤などの外用剤が消炎作用や保湿効果を期待して使われる。
ただ、抗炎症作用が弱いこれらの外用剤では十分な治療効果は得られない。

 そのため、85.2%にもなる皮膚科医は副作用の軽減、コンプライアンスの向上、
保湿剤の相加・相乗作用を期待して、ステロイド外用剤を様々な外用剤で混じて用いている1)。

しかし、ステロイド外用剤を他の外用剤と混合して使うということにはいくつかの問題点があり、
その科学的根拠は乏しい1,2)。

混合する外用剤の種類によっては期待に反してステロイドの透過性が著しく増したり、
あるいは基剤のpH変化によるエステル転移による加水分解でステロイド(17位モノエステル)そのものの含有量が低下することが指摘され1,2)、外用剤を混合する際には基剤、配伍剤相互の物理的・化学的な変化を十分考慮しなければならない。

 かつて種々の薬物が混合された古典的外用薬が繁用されていたが、
ステロイド外用剤の登場とともに徐々に使用されなくなった3)。

ステロイドのような速効性はないが、古典的外用剤には、刺激性、感作性が低く、
さしたる副作用が認められない。

そして軽~中等度の湿疹病変に対しては、古典的外用療法で炎症の鎮静化を図ることが可能であり4)、
保湿剤としての効果もある程度期待ができる。

経過が長いアトピー性皮膚炎などでは、強い薬効を示す外用剤とほとんど消炎作用のない保湿剤の狭間を埋めることができるなどの利点があり、今なお皮膚科専門医の間では、様々な工夫を凝らして調合された古典的外用薬が重宝に用いられ、治療効果の向上がはかられている3,5)。

 亜鉛華軟膏は現在もなお幅広く使用されている代表的な古典的外用薬である3)。

含まれている酸化亜鉛(10、20%)の収斂、消炎、保護、防腐効果で、炎症を抑制、組織修復の促進、痂皮の軟化、湿潤面の乾燥化がはかられる。

この亜鉛華軟膏に各種の主剤を配合した混合剤が様々な薬効を期待して用いられる6)。

 外用療法において消炎止痒効果のある配伍剤として、イクタモール、グリテール、ビチロール、木タール、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、NSAIDsが紹介されている6)。

これらのうち、タール剤は我が国では、使用時のにおいと衣服の汚れ等の問題で顧みられなくなっているが、欧米(Rook、Fitzpatrick)では、topical nonglucocorticoid therapyの抗炎症あるいは抗そう痒効果のあるものとして、NSAIDsではなく木材、コールタール、瀝青質頁岩、粗製石油などを原料とする黒色の油状液であるタール剤がとりあげられ、詳しく記載されている7,8,9,10)。

 かつては、防腐、殺菌、消炎止痒作用のあるグリテール、イクタモール、ピチロールなどが2~5%含まれる亜鉛華軟膏と混じた外用剤が日常的に種々の皮膚疾患に用いられていた6,10,11,12,13)。

 グリテールは脱脂大豆を乾留精製して得た暗褐色、粘稠のタール液で、特有な強いにおいがある。

湿疹・皮膚炎群、掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、皮膚そう痒症に適応がある。
タール剤の中でも特にきついにおいがあるため各種軟膏基剤に0.2~5%の濃度に練合し、
1日1~2回塗擦又は貼付して使用する。

白色モルモットにDNCBで惹起した皮膚炎に対する臨床試験で、
0.1%デキサメタゾン軟膏と同等又はそれ以上の抗炎症作用を有することが確認されている11)。

 イクタモールはオーストリアのチロル地方の太古の魚類と海獣の残骸を含む石塊(瀝青質頁岩)を
乾留精製して得られたイヒチオールと称する独特のにおいがある油状のタールである。
イタリア、フランスでも産する。
亜鉛華軟膏と混じて湿疹・皮膚炎群、ざ瘡、膿痂疹、毛瘡、凍傷、火傷、関節炎、痔疾などに用いられていた12)。

 ピチロールは京都大学医学部の松浦有志太郎教授によって創製された、
米糠から乾留精製される湿疹・皮膚炎群に有用なタール剤である14)。

 グリテールは製造承認はあるが薬価未収載、イクタモールは薬価収載されているが皮膚障害を起こす恐れのある表示対象成分の製品として厚生省から告知され製造が中止され、ピチロールも製造されていない。

 タール剤のうち、薬価収載、製造・市販されているものとして、モクタール、グリパスCがある。

既に古代エジプトにおいて死体保存の目的で使用されていたモクタールは、
欧米では古くから医療用に利用されている。

アカマツおよびクロマツから得られる帯黒褐色の粘性の液で焦げたようなテレビン油臭があるモクタールは、Stockholm tarとも呼ばれ、北欧諸国でよく使われている8)。

タール剤の副作用の一つである光線過敏性がないといわれている15)。

白癬、黄癬、疥癬、乾癬、湿疹・皮膚炎群が適応疾患である。
20~33%濃度のモクタール10%亜鉛華軟膏は抗炎症、抗そう痒効果の上で特に有用である。

 グリテールの単体は薬価基準未収載品であるが、グリテールとステロイド剤の混合外用剤であるグリメサゾン軟膏は、湿疹・皮膚炎群の治療剤として広く用いられている。

配合されたグリテールの作用でステロイド剤の休薬で生じる再発・再燃現象を低減させる作用があり、
また白癬菌や化膿性細菌に対する抗菌作用が認められている16)。

グリパスCはグリテールが0.5%含まれる酸化亜鉛、ジフェンヒドラミンの混合剤である。

グリテールとしての強烈なにおいはよく抑えられている。
湿疹・皮膚炎群、皮膚そう痒症に対して抗炎症、抗そう痒効果がある。

 強い抗炎症、抗そう痒作用を有しているタール系の混合外用剤を用いることにより、
外用療法の選択肢が増え、幅の広い診療が可能となる。
混合剤は是である。

文献

1)江藤隆史:ステロイド外用剤の使い方-混合の是非、臨皮、55(5増):96-101,2001

2)大谷道輝:皮膚外用剤の混合・希釈とその問題点、皮膚臨床、42(7):975-980,2000

3)西岡清:皮膚外用薬の選び方と使い方 改訂第3版、南光堂2001,4,1

4)佐藤貴浩:特集/最新アトピー性皮膚炎診療マニュアル 治療の基本方針.Monthly Book Derma.;54,36-39, 2001

5)矢島純:治療、vol. 82, No.5 , p174-175,2000

6)上野賢一:皮膚科学、改訂6版、金芳堂、1998

7)Leung DYM, et al.: Atopic dermatitis. In:Freeberg IM, Eisen AZ et al, eds. Fitzpatrick's Dermatology in generalmedicine. 5th ed. New York McGraw-Hill :1475,1999

8)Griffiths, WAD, et al.:eds. Rook / Wilinson / Ebling Textbook of dermatology 6th ed. Oxford 1998

9)Raimer SS.: Managing pediatric atopic dermatitis. Clin Pediatr. ;39:1-14,2000

10)Alexandria SK, et al.: Topical nonglucocorticoid therapy, In:Freeberg IM, Eisen AZ et al, eds. Fitzpatrick'sDermatology in general medicine. 5th ed. New Yor: McGraw-Hill; :2719-2720,1999

11)竹内久米司、他:大豆粨乾留タール(Glteer)の抗炎症作用(第2報)、日薬理誌、91,1-7,1988

12)望月秀彦:Tar剤の皮膚に対する作用、日皮会誌、80,5,315-329,1970

13)第九改正日本薬局方解説書、廣川書店、D-64,1976

14)京都大学大学院 医学研究科臨床器官病態学講座 皮膚病態学分野 本教室の発展と現況 http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~skin/flame_left.html

15)Kaidbey KH, et al :Clinical and histological study of coal tar phototoxity in humans. Arch Dermatol 113:592, 1977

16)伊藤幸次、他:グリメサゾン軟膏のグリテール配合意義に関する研究(1)-抗菌作用ならびにステロイド剤休薬による再発・再燃現象の低減化作用-、薬理と治療、25(5), 1997

医療法人社団アップル会 藤澤皮膚科 
東京都練馬区東大泉1-37-14 藤澤皮膚科

~タール剤
(グリパスC、モクタール、イクタモール)~ 
おわり

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