脱軟(脱保湿剤)について

アトピー性皮膚炎の方は、乾燥肌であることが多く、悪化したときには、
さまざまな炎症を抑える外用剤を使用し、軽快すると徐々に保湿剤に切り替えて、
スキンケアをするということが普通に行われています。

保湿剤としては、ワセリン、尿素軟膏、アズノール、ユベラ軟膏、ザーネ軟膏、ヒルドイド軟膏、ビーソフテン、 あるいは、アンダームやスタデルム軟膏などの非ステロイド系消炎剤などもよく使われています。

しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、ワセリンを使用すると、
べたつく、あるいは塗っていると調子が悪くなる、痒くなるという人がいます。

パッチテストで陽性反応を示す接触皮膚炎であることもあります。

特に、治り難い経過の長い方の場合、ワセリンに限らず、
保湿剤を塗ることに依存している状態があるということを
1996年、名古屋市立大学医学部皮膚科助教授の佐藤健二先生(現在、公立学校共済組合近畿中央病院)が
「重症成人型アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用剤離脱」皮膚、
38巻4号:440-447, 1996)で、報告されました。

この中に、『保湿剤が有害となる』という項目があります。紹介します。

『脱ステロイド後、症状が軽くなった時期には保湿剤は皮膚に悪い影響を及ぼ します(このことはほとんどの皮膚科医が気付いていませんのでここで特に強調したいことです)。

この時期に残っている紅斑(赤み)など皮膚の症状をよくす るためには、保湿ではなく乾燥が必要です。
この時期には、ワセリン・アズノール軟膏・種々のクリーム・化粧水・馬油・オリーブオイルなどほとんどすべての油(石鹸で洗わない場合は自分の皮膚の油でも)は、赤みなどを持続させるように働きます。 

女性の場合、化粧ができるかどうか大変気になるが、
化粧も一種の保湿なので、脱ステロイド終了後少なくとも1年間は我慢していただいています。

このような治療を始めたのはまだ日が浅く、どうして脱軟がよいのか、
これが正しいかどうかは今後明らかになると思います。

脱軟、あるいは脱保湿剤、これは、特に治り難い経過の長いアトピー性皮膚炎によく効きます。

擬態語的に『乾燥ガビガビ療法』ということがありますが、
original の佐藤健二先生は『脱軟』とおっしゃっているので、極力『脱軟』という言葉を使います。

この考え方の治療法は、アトピー性皮膚炎をステロイド外用剤に頼らずに治療するという考えを持っている皮膚科医の間では、よく知れ渡っている方法で、素晴らしい成果を上げています。

ステロイド外用剤を第一選択に用いて、アトピー性皮膚炎を治療して、軽快し たらプロペトなどの保湿剤できちんとスキンケアするのがよいと考えられています。

それでよくなる症例もありますが、逆にステロイド依存性皮膚症となり、
悪化の一途をたどり、二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなり、
やむを得ず脱ステを試みることになりますが、
それでもなかなか改善しないということがしばしばあります。

脱ステして、1年、2年以上たったにもかかわらず、なかなか良くならない人の多くがはまっているのが、
佐藤健二先生の指摘される『保湿剤依存症』なのです。

そういう方に共通した特徴として、
ワセリンやアズノール、オリーブ油、馬油 などの油脂性軟膏を
始終、絶え間なく、塗っていることがあげられます。

アトピー性皮膚炎の方の皮膚はおおむね乾燥していますから、ワセリンなどを塗るとべたつきますが、
当面の保湿効果が得られ、しっとりして、とりあえず安心できます。

ステロイド外用剤を塗ると当座の症状が抑えられ、その場のつらさをしのげるのとよく似ています。

当の本人は、ワセリンが皮膚にしみ込んでいくといいますが、はたしてどうでしょう。

ワセリンを塗ると…

(1)ワセリンを塗ると、体温で油分が蒸発する。
質の悪いワセリンを塗っている人の近くに行くと、軽油の匂いがすることがある。

(2)角質層にワセリンがしみて、溶け込んでいくかも知れないが、
本来の角質細胞内にある天然保湿因子や角質層内にあるセラミドなどの存在に
悪い影響を与える可能性がある。

(3)自然の保湿機能の邪魔をする。

(4)ワセリンが角化の促進作用に加担する可能性がある。
ワセリン自体に鉱物油としての不純物が含まれており、それに反応しているかもしれない。

(5)汗がでても、保湿成分である汗の成分の尿素が角質にしみ込んでいく妨げにならないか。

(6)角質に溶け込んだワセリン自体が様々な異物とともに
アレルギー炎症反応を促進させるアジュバントのような作用を起こしている可能性がある。

細胞性免疫反応を増強させるアジュバント(adjuvant、同義語:免疫増進薬) は元来助ける、振動するという意味であるが、抗原と混合または組み合わせることで抗体産生の増大、免疫応答の増強を起こす物質の総称である。殺菌微生物の ように抗原性をもつもののほか、alum(硫酸アルミニウム・カリウムなど)や鉱物油のように非抗原性のものもある。

アジュバントの効果は、
○抗原を不溶化することで組織に長く留まって抗原を徐々に長期間遊離させること、
○抗原をマクロファージに貪食されやすい状態にすること、
○免疫に関する細胞を非特異的に活性化することで、少なくともいずれか一つの性質をもつ。

(7)ワセリンを塗ることにより、体温が上昇し、
そう痒が起こりやすくなる。

(8)油脂性軟膏は、鉱物油、植物油にかぎらず、量の多寡(多い少ない)はあっても、光毒性を発揮する。
日焼けしやすくなり、シミの原因になる。

(9) パッチテストでワセリンに陽性反応を示す接触皮膚炎が存在。

(9)のワセリンに対する接触皮膚炎の問題を除外しても、これだけ懸念事項があります。

保湿剤依存の状態になっていることに気づいていない人が多いようです。
本人は勿論、皮膚科医さえも、スキンケアは大事と、認識しているし、
塗らないと治らないと、思いこんでいます。
皮膚が病んでいるのだから、何かを塗らなければいけないという強迫観念があるのではないかと思えるほど、無反省にひたすら 外用剤を塗り続けるということに、疑問を持つのも大切です。

以前から、ワセリン負けとか、ワセリンに対する接触皮膚炎の存在とかは理解されていましたが、
それは仕方がないことだとされていました。

アトピー性皮膚炎ですから、もう治りませんと医師から言われて、愕然とし て、治らないのならもう治療はやめようという気持ちになり、今までもらっていた外用剤の使用を止めてしまうという患者さんがときどきいます。

急に止めるわけですから、リバウンドが表れ、しかも何も塗らないので、乾燥がひどくなり、ガビガビになります。

焼けのヤンパチ状態です。こうなるとどうなるでしょうか。

リバウンドですから、リンパ液が出て湿潤がひどくなりますが、それが何も塗らないので、乾燥が強いのとあいまって意外と良くなってしまうことがあるのです。

脱ステと脱軟を同時におこなったのが良かったということになります。

この脱軟(乾燥ガビガビ療法)、既存の皮膚科医の発想からは逸脱している治療法です。

保湿剤依存で治らないパターンがあることには、医師も患者も思いが至らないのですが、そのまさかです。

Copernicus(コペルニクス)的。
何しろ、根っからの皮膚科医 である我々は、はじめに軟膏療法ありきで皮膚科の修練がスタートします。

かくいう私も、脱軟という概念を知るまでは、ステロイド外用剤の使用がマイナスだ と判断された患者さんで、脱ステロイドを行う場合、それと同時に、プロペト、アズノール、スタデルム、亜鉛華軟膏、ウレパール、ヒルドイド、レスタミン軟 膏、オイラックスetcと組み合わせて、いかに保湿して乾かないようにするかを念頭において、治療してきました。

こんなエピソードが参考になります。
昔から、外交官や商社マンの奥様方の間で、 語り継がれてきたことに、「欧州(ことにスイス)に行っても、顔が乾燥して、ガビガビになるけれど、決して乳液やクリームを塗ってはだめよ。
何も塗らない で、我慢していれば、そのうち、向こうの気候になれて、肌がしっとりしてくるから」というのだそうです。

確かに、女性の顔の接触皮膚炎、いろいろパッチテ ストをやって、抗原を調べるのも意味はありますが、それよりも何よりも、乳液、クリームを止めるだけで、肌の調子が軽快することをしばしば経験します。

なかなか、治らないアトピーの治療に、脱ステロイドを開始するが、それと同時に、脱軟も行うと、意外とリンパ液の滲出も少なく、一気に乾いて、短時間でリバウンドも乗り切って、1~2ヶ月で、けりがつきます。

急に乾燥ガビガビ、 バリバリになり、鱗屑が付着し、口が開かないようになることもあります。

しかし、痒みは急減し、発赤も一気に消える。早い場合は3ヶ月ぐらいで、つるつるの肌になります。

佐藤健二先生が提示されたスライドの内容を紹介します。
意味深く、大切なものばかりです。

さらっと受け流してはもったいない大切な事柄が包含されています。
古典を熟読するようにじっくり、解釈を加えてみました。

佐藤健二先生のスライドから
『脱保湿の理解困難
・世間の常識(ADに保湿は良い)と反対
・軟膏、クリーム、オイル、水など色々
・「肌に優しい」「ADに良い」との石鹸やボディーシャンプーは保湿作用を有す
・布団やコタツの中も分厚い服も保湿
・「入浴後、直ちに外用しなければ耐えられない」は異常な皮膚である(保湿依存症)』

注釈:一般的に行われている治療法では、スキンケアが推奨されており、この スキンケア≒保湿剤の使用とされています。
スキンケアグッズには『軟膏、クリーム、オイル、水など』様々なものがあります。

悪化して、一日中布団に入って いるのも、あるいは厚着をしたり、包帯でぐるぐる巻いているのも一種の保湿です。
『入浴後、直ちに外用しなければ耐えられない』ということ自体が異常なの です。
保湿(剤)依存症という異常。保湿剤依存の状態の方にしてみれば、依存から脱する脱保湿は理解が困難で、
受け入れ難いものです。

しかし、一気に脱軟 をしてみると、最初の2週間ぐらいはバリバリ、ガビガビで大変ですが、
その後炎症がなくなり、発赤も消えていきます。
体を動かすと切れるような感じさえして痛いこともありますが、炎症が取れてきて、かゆみは減ります。
1ヶ月もすると、少しずつ元通りの皮膚の自然の保湿力がよみがえり始め、ガビガビが改善し てきます。
その後は時を経るにつれ、さらなる自然治癒がすすみます。

~脱軟(脱保湿剤)について~ おわり

東京都練馬区東大泉1-37-14
医療法人社団アップル会 藤澤皮膚科 藤澤重樹  


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